非営利法人

演習場賃料100億円申告漏れ

 

2018年6月の報道によると…

2018年6月のニュースで「陸上自衛隊東富士演習場の用地の地権者で構成する一般社団法人と一般財団法人の計10法人が、名古屋国税局の税務調査を受け、国から得た賃料について総額で100億円を超える申告漏れを指摘された…」というものがありました。
まず金額の大きさにビックリですが、報道内容から見るに非営利法人特有の法人税制が絡んでいます。そこで、今回のコラムは「“演習場賃料100億円申告漏れ”にみる非営利法人税制」をテーマとします。

 

報道の内容は…

各報道機関の報道内容を以下にまとめます。
①各法人は従来から、自衛隊演習場の用地を国に直接貸して賃料を受け取ってきた。
②公益法人制度改革前、各法人は旧公益法人(社団・財団法人)として、税の優遇を受けていた。国から受け取った賃料は非課税となっていた。
③2008年の公益法人制度改革に伴い、非課税の公益法人から税優遇が限定的な一般社団・財団法人にそれぞれ移行した。“一定の要件を充たしている場合”を除いて課税の対象となった。
④国税局は、10法人が賃料収入を地元高齢者への「敬老祝い金」などに充てている点から、課税が必要と判断したとみられる。

 

一般社団・財団法人に法人税はかかるの?

平成20年の公益法人制度改革により誕生した法人形態である「一般社団・財団法人」には、公益的活動の実施は必ずしも求められておらず、一般企業と同様に利益獲得のみを目的とした一般社団・財団法人を設立することも可能です。
他方、旧社団・財団法人から一般社団・財団法人に移行した法人に顕著ですが、公益的な活動をメインにしている法人が多数あります。
そこで、一般社団・財団法人の法人税については、
①普通法人 … 一般企業と同様に法人の全ての所得に法人税がかかる
②非営利型法人 … 34種類ある課税事業のうち1つでも実施していれば、その課税事業の所得についてのみ法人税がかかる
という2つのパターンが用意されています。
そして、非営利型法人に該当するためには“一定の要件”の遵守が必要とされています。

 

非営利型法人の“一定の要件”ってなに?

非営利型法人の要件には以下の2類型があり、いずれかの類型に必要とされる全要件を充たし続けることが必要とされています。
①非営利性が徹底された法人
②共益的活動を目的とした法人

一つ一つの要件については、国税庁の「新たな公益法人関係税制の手引」にまとめられていますので、ご覧下さい。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/koekihojin.pdf

今回の申告漏れの事案では、いずれの類型でも要件の一つとして禁止されている、特定の個人又は団体に「特別の利益供与」を行った点が問題となりました。

 

つまり今回の報道は

10法人は、地元高齢者への「敬老祝い金」の支払いなどを行っていたとのことです。この点を国税局は“特別の利益供与”の実施とみて、非営利型法人ではなく、一般企業と同様に法人の全ての所得に法人税がかかる普通法人と判断したものと考えられます。
そもそも、非営利型法人としての要件を充たし続けていれば、つまり特別の利益供与をしていなければ、国や地方公共団体に直接貸し付ける不動産の貸付業は非課税とされていたのです(法人税法施行令第5条第1項第5号ホ)。コワイですね。

 

最後に

非営利型の一般社団・財団法人の関係者の皆様は、これを機会に特別の利益供与(と受け取られかねない行為)を実施していないか、ぜひご検討下さい。また、できれば非営利型法人の他の要件も改めて確認してみると良いでしょう。

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大塚健一
大手監査法人・税理士法人における非営利法人分野での知識・経験により、非営利法人支援業務に特化して業務を展開しております