税制関係

遺言が必要となるケースについて

 被相続人(死亡者)の生前時はトラブルもなかった親族同士が、相続財産を巡って急遽争いを始めるようなケースを耳にすることもあります。自身の死亡により親族関係が破綻するようなことは被相続人にとっても避けたいことだと思われます。

 そもそも、自分の財産をどのように処分するかは基本的に本人の自由であるため、遺言により被相続人の意思を反映することができます。

 遺言による指定相続分は何よりも優先され、相続財産の取り分を巡る協議を避けることができますので、親族同士の円滑な関係を維持するためにも遺言により財産を適切に相続させることが必要となります。

 

遺言が必要と想定されるケース

1. 夫婦間に子供がいないので妻に全財産を渡したい場合

 被相続人の父母(祖父母含む)や兄弟姉妹(甥姪含む)が存命している場合、父母は1/3、兄弟姉妹は1/4の法定相続分があるため、遺言により相続分を指定する必要があります。

 

2. 前妻の子供と現在の妻の子供がいる場合

 前妻については婚姻関係がないため相続人ではありませんが、前妻の子供については法律上現妻の子供と同様の相続人として扱うこととなります。そのため、現妻の子供に多くの資産を残したい、もしく は前妻の子供に多くの資産を残したい場合には、遺言により相続分を指定する必要があります。

 

3. 認知した子供がいる場合

 平成25年の法改正で、非嫡出子の相続分を嫡出子の1/2とする規定は撤廃されましたので、非嫡出子についても嫡出子と同様に取り扱うこととなりました。そのため、妻や嫡出子に多くの資産を残したい、もしくは非嫡出子に多くの資産を残したい場合には、遺言により相続分を指定する必要があります。

 

4. 内縁の妻へ財産を渡したい場合

 内縁の妻は法律上配偶者ではないため相続人とはならないため、遺言により相続分を指定する必要があります。

 

5. 財産を渡したくない相続人がいる場合

 ①被相続人への虐待、②被相続人に対する重大な侮辱、③明らかな非行がある推定相続人に財産を渡したくない場合でも、子供や父母には遺留分があり、単純な指定相続となる遺言では相続されてしまいま す。そのような場合は、遺言により上記に該当する者を相続人から排除する意思表示をする必要があります。なお、相続人の廃除は、遺言だけではなく、裁判所に申し立てすることにより実行することも可 能です。

 

6. 家業継ぐ後継者に事業用財産を相続させたい場合

 事業用財産(主に自社株式)を後継者に全て渡したくても、後継者以外の妻、子供、父母には遺留分がありますので、事業用財産以外に遺留分相当の財産がない場合には、事業用財産を売却もしくは共有しなければなりません。
 このような場合は、「遺留分の特例制度」を利用し、自社株式を遺留分の対象から除外することができます。

 

参考:遺留分の特例制度を受けるための条件

Ø  3年以上継続して事業を行っている非上場の中小企業であること(業種により資本金、社員数が異なる)

Ø  先代経営者から後継者に対して贈与された自社株式であること

Ø  先代経営者は過去または現在、会社の代表者であること

Ø  後継者は代表者であること

Ø  後継者は贈与された株式を含めると議決権の50%以上を有すること

Ø  推定相続人全員との書面による合意があること

Ø  合意をした日に、後継者は代表者であること

Ø  合意をした日に、贈与された株式を除くと後継者が所有する議決権は50%以下であったこと

 

トラブルを発生させないために

 相続時にもめる一番の理由は、被相続人が死亡していることにより本人の考え方や思いが分からずに、相続人間で各々の自己主張が始まることです。

 法定相続分は複数の相続人間での協議を円滑に進めるために法律上示した一定の基準であり、遺留分は相続人の不当な不利益を最低限に守る法律上の制度に過ぎません。

 したがって、自身の考え方や思いを生前から想定される相続人全員に理解してもらった上で、相続人間でもめごとが起こらないと考えられる相続割合(法定相続分や遺留分を考慮した割合)を遺言で適切に残すようにしましょう。

 

 今回は遺言が必要となるケースについて記載しましたので、次回は遺言書を作成するときのポイントについて述べていきたいと思います。

以 上

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石川大祐
IPO支援や決算支援、非営利法人関係や財務DDなどの幅広い業務領域で展開する一方で、企業の役員や内部監査等、企業内部からの支援を展開しております。