海外ではグーグル、フェイスブックなど、議決権制限種類株を発行し、議決権制限種類株を上場するスキームが比較的一般的に行われています。
具体的には、経営者の保有する株式の議決権を上場する株式の何倍もの数に設定し、経営者が経営権を維持したまま上場しているのです。
例えばグーグルやフェイスブックでは、創業者が上場した種類株の10倍の議決権を持った株式を保有しており、現在でも高い議決権比率により経営権を維持しています。
では、日本ではこのスキームは採用可能なのでしょうか?
東証は2001年の商法改正、2005年の会社法改正等を受け、2008年7月に上場基準を整備し、一応制度的には議決権制限種類株の上場は可能なものとしました。
日本では、CYBERDYNEが2014年3月に日本初の議決権制限種類株を用いたスキームにより上場しており、 上場時の開示によると、CYBERDYNEは「1単元につき1議決権を持つ普通株式」と「1単元につき10議決権を持つB種類株式」を発行し、経営者がB種類株式を保有し、普通株式を証券取引所に上場させるというスキームを採用しています。
しかし、東証としては「(議決権制限)種類株の上場は、コーポレート・ガバナンスに歪みをもたらす可能性が高いため必ずしも望ましくないもの」との考え方により、種類株上場は例外的にしか許容されないとのスタンスを取っています。
東証は、CYBERDYNE上場後の2014年7月に「上場審査等に関するガイドライン」を改正し、種類株上場が許容される条件として以下を掲げています。
- 必要性:議決権種類株式の利用の必要性について、一般投資家の納得が得られること
- 相当性:議決権種類株式のスキームが当該必要性に照らして相当であること
「相当性」については、支配権の移動制限への対応策が適切にはかられていることや少数株主の利益保護が図られていることなどが求められており、CYBERDYNEの上場の際にもこれらを考慮した各種制度の設計が行われています。
また、「必要性」については「議決権の多い株式等により特定の者が関与し続けることができる状況を確保すること等が、株主共同の利益の観点から必要であると認められること」とされており、審査上のハードルは高くセットされています。
CYBERDYNEでは、この「必要性」について以下のような複数の視点・観点から説明しています。
- 技術開発及び事業経営推進者の継続的な経営関与
革新的なサイバニクス技術の研究開発と事業経営を一貫して推進する山海教授が経営に安定して関与し続けることが、株主共同利益(企業価値向上)の観点から必要である。
- 経営者の持分希薄化の蓋然性の高さ
ビジネスプラン遂行の過程で追加的な多額の資金調達が必要となるため、議決権種類株式のスキームを導入しなければ、山海氏の持分が将来的に取締役選任を行うことが可能な50%超を下回ることが見込まれる(経営の安定性が阻害される)。
- 平和利用目的(軍事転用防止目的)
会社の開発した先進的なサイバニクス技術が、人の殺傷や兵器利用を目的とした軍事産業への転用など、平和的な目的以外の目的で利用される可能性があるため、そうした転用を防止する必要がある。
必ずしもCYBERDYNEと同様の観点から説明しなければならないわけではないですが、同社が上場して以降、種類株上場を果たした会社は登場していません。
「創業経営者等の経営能力が不可欠だ」と考える会社は多いため、一見すると、上記の①については必要性を簡単に説明できそうです。
ただし、投資家を納得させるだけの客観的かつ属人的な知識・ノウハウ・技術力等が求められるため、その他の要件と組み合わせると、一般的な会社で「必要性」を合理的に説明しきるのはなかなかに難しいと言わざるを得ないようです。
金井重高
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