会計基準

税効果会計に係る会計基準等の公開草案について

 

はじめに

平成29年6月6日に企業会計基準委員会(ASBJ)より企業会計基準公開草案第60号「税効果会計に係る会計基準」の一部改正(案)、及び企業会計基準適用指針公開草案第59号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」が公表されました。
また、同時に従来の「連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針」、「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」、「税効果会計に関するQ&A」、「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」を統合した企業会計基準適用指針公開草案第58号 「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」の公表がされています。
適用時期については、2018年4月1日以後開始する事業年度の期首からとする提案がされていますので、このタイミングで一度草案の内容を確認しておきましょう。

改正により影響を受けるのは??
会計処理への影響

①個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取り扱い
現在、個別財務諸表において発生した将来加算一時差異については将来にわたり支払可能性の見込まれない場合を除き繰延税金負債を計上することとされています。
一方で、連結財務諸表における子会社への投資に係る一時差異の税効果のうち、配当受領により解消が予定されている一時差異以外の一時差異については、予測可能な将来、売却の意思決定が明確な場合又は投資評価減の損金算入の要件が満たされることとなる場合を除き、計上しないこととされています。
今回の改正では、子会社への投資にかかる将来加算一時差異から生じる繰延税金負債について、連結財務諸表における税効果実務指針に整合させるため、投資売却の意思決定を投資会社自身で決定することができ、かつ、予測可能な将来の期間にその売却等を行う意思がない場合を除き個別財務諸表上も繰延税金負債を計上することとしております。
これにより影響を受けるのは例えば以下のケースです。
<ケース1>
100%子会社間の取引においてグループ法人税制の適用により、税務上の投資簿価が修正され、税務上の簿価が低下した子会社株式の売却を予定している場合。
<ケース2>
連結納税制度を採用し、その後完全支配関係がなくなり投資簿価を修正した子会社の売却を予定した場合。

いずれのケースにおいても現在の会計基準では、投資簿価の修正により発生した個別財務諸表上の将来加算一時差異について、将来の支払い可能性が見込まれない事から繰延税金負債は計上されませんが、改正後においては、連結上の税効果と同様繰延税金負債を計上することとなります。

②分類1の企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取り扱い(完全支配関係にある国内子会社株式の評価損について)
現在の繰延税金資産の回収可能性に関する取扱いでは、分類1の企業においては、繰延税金資産の全額について回収可能性があるとされております。
しかしながら、平成22年度の税制改正において100%子法人を清算する際に、未処理欠損金額(9年内の繰越欠損金額のうち未使用のもの)を親法人に引き継ぐことができるうようになった一方で、投資から発生した消却損については損金に算入することができなくなりました。
これにより100%子会社から生じた評価損について最終的に必ずしも損金算入されない場合が生ずることとなりました。
今回の改正ではこのような実質的に回収可能性がない場合を想定し、「分類1に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする」とされております。

開示における影響

改正草案では開示面において以下の改正が予定されております。
①繰延税金資産及び繰延税金負債の計上区分の変更
②評価性引当額の内訳注記
③税務上の繰越欠損金に係る繰越期限別の注記
注記については全てIFRS・米国会計基準とのコンバージェンスを進める改正となります。

まとめ

会計処理に関する改正では、実務上例外的なケースにおける会計処理への影響であるため、今回の改正での影響は殆どない事が想定されます。
一方、開示に関する改正においては、特に繰越欠損金について詳細な開示が必要とされました。
そのため、多額の繰越欠損金が生じている企業や多数の子会社に繰越欠損金が生じている企業の経理担当者は、重要な繰延税金資産については定性的な説明を記載する必要になるなど、現在より負担が増すことが想定されるため、改正内容について事前に社内で共有しておく必要があるでしょう。

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石栗樹
ベンチャー企業から上場会社まで監査業務や各種アドバイザリー業務(決算支援、M&A支援等)行ってきた経験を活かし、ベンチャー企業の管理部で管理体制の強化を行っております。